AGA治療薬のフィナステリドは前立腺がんによる死亡リスクを減らす!?
男性ホルモンのジヒドロテストステロンは男性疾患の原因になります。
ジヒドロテストステロンはAGA(男性型脱毛症)や前立腺肥大症の原因になるのです。
フィナステリドはジヒドロテストステロンを減らすことにより男性疾患の治療ができる夢の薬だと考えられたことがありました。
そして、前立腺肥大を防ぐことができるのであれば、同じように前立腺がんを減らすことも出来るのではないだろうかと推測されました。
1993年に過去最大規模の1万8千人もの被験者を対象に行われた有名なランダム化比較試験があります。
それがPCPT(Prostate Cancer Prevention Trial)と言われる前立腺がんの予防に関する臨床試験です。
その結果は意外なことにフィナステリド5mgを内服することによって、前立腺がんそのものは減っても、むしろ悪性度の高い前立腺がんを増やす可能性があるというものでした。
FDAはその結果をうけてフィナステリドを使った前立腺肥大症の治療に警告を行いました。
そのため前立腺肥大症に対してフィナステリドを使用するのが本当にいいことなのか分からなくなりました。
フィナステリド5mgの内服は本当に危険なのでしょうか。
この話には続きがあります。
実はその後も長い間、データの蓄積を行ってきたのです。
そして2019年1月についにその結果の解析が行われました。
約30万人・年、中央値で18.4年の追跡期間にもなる壮大なデータを解析することにようやく成功したのです。
今回は、AGA治療薬フィナステリドと男性疾患との関連性について駅前AGAクリニックの医師が詳しく解説します。
— 目次 —
- フィナステリドは元々、前立腺肥大症の薬だった!?
- フィナステリドで癌になるの!?
- 2013年の解析ではどうだったのでしょうか。
- 2019年の最新の解析ではどうだったのでしょうか。
フィナステリドは元々、前立腺肥大症の薬だった!?
フィナステリドは1992年に米食品医薬品局(FDA)に良性前立腺肥大症の治療薬として認可されました。
その投与量は一日5mgとAGAの治療に使う1mgよりもかなり多いものです。
これにより前立腺肥大症が治療できるようになったのです。
その後、効果の強いデュタステリドが登場したことによってその座を奪われて行きましたが前立腺肥大そのものを治すことができる薬は5αリダクターゼ阻害薬のみなのです。
フィナステリドやデュタステリドはその後、AGAの治療薬としても活躍するようになっていきます。
フィナステリドで癌になるの!?
フィナステリドが前立腺の肥大を抑えるのであれば、前立腺の炎症も緩和することが想像されます。
これは前立腺の癌化を抑制する可能性があります。
実際に臨床検査をすればその予防効果が分かります。
米国立衛生研究所(NIH)傘下の米国立がん研究所(NIH)の資金提供を受けてSWOG(South West Oncology Group) Cancer Research Networkが1993年にPCPT(前立腺がんの予防に関する臨床試験)を開始しました。
2003年に発表された結果が上記の結果だったのです。
前立腺がんの発症リスクがプラセボ群に対してフィナステリド群では25%減少するものの悪性度の高い前立腺がん(グリソンスコアが7-10)がフィナステリド群で6.4%、プラセボ群で5.1%で発症していて有意にフィナステリド群で悪性度の高い前立腺がんが増えていたのです。
つまり前立腺がんは全体としては減ったけれども悪性度の高い前立腺がんは増えたという結果だったのです。
2013年の解析ではどうだったのでしょうか。
このような結果では、これが良いことなのか悪いことなのか分かりません。
フィナステリドによって本当に悪性度の高い前立腺がんが増えたのかもしれません。
それともフィナステリドによって前立腺が小さくなることによって悪性度の高い前立腺がんの発見がしやすくなっただけなのかもしれません。
そこで今度はこれが生存率の低下や前立腺がんによる死亡率に影響するかどうかが検討されました。
これが2013年にThompson Jr.らによって行われた解析です。
7年ではなく、より長期のデータを集めています。
この結果はプラセボ群とフィナステリド群で生存率は同じでありフィナステリドは危険ではないというものでした。
2019年の最新の解析ではどうだったのでしょうか。
The New England Journal of MedicineにThompson Jr.らがさらに約20年にも及ぶ追跡結果を発表しました。
『Long-Term Effects of Finasteride on Prostate Cancer Mortality』
(フィナステリドの長期投与が前立腺がんによる死亡率に与える影響)
米疾病対策センターが管理している米国民の死亡記録のデータベースと被験者を照合して死亡した被験者の死因を特定したのです。
約30万人・年、中央値で18.4年の追跡期間中に前立腺がんでの死亡はフィナステリド群で42例でありプラセボ群で56例発生しました。
フィナステリド群での死亡リスクはやはり初回の研究と同じく25%減少していたのです。
初回の分析では7年の追跡期間でした。
より大規模に、約20年というより長期間でデータを収集した結果では前立腺がんによる死亡率は25%も減少するというものだったのです。
前立腺がんは男性の9人に1人がかかる病気です。
フィナステリドで25%も死亡率を下げることができるのであれば大変な結果だと考えられます。
ただ、この研究には欠点があります。
これほどの規模で研究を行いましたが、全体の前立腺がんの死亡数が98例しかないために統計的に有意差が出てこなかったことです。
つまり正確に結論を出すにはもっと多くの被験者を集めなければならないでしょう。
しかし、この結果を受けてフィナステリドで悪性度の高い前立腺がんが増えて死んでしまうかもしれないという長い間の懸念は解消されたのではないでしょうか。
フィナステリドはむしろ悪性度の高い前立腺がんの発見を助けていただけなのではないでしょうか。
AGAの治療にはフィナステリドは1mgしか使いませんが、5mg内服すれば前立腺がんも予防できると考えることができるようになったのです。
では、次はより効果の強いデュタステリドでも同じように前立腺がんを予防できるのではないかということが想像されます。
しかし、これを証明するには同じように長い時間が必要でしょう。
今後の研究が期待されるところですが、私個人的にはデュタステリドはフィナステリドと同じように前立腺がんを予防することができると信じています。
フィナステリドやデュタステリドはやはり男性疾患を予防することができる夢の薬剤だったのではないでしょうか。
最新の大規模臨床試験の結果から言えることは・・・
① フィナステリドは前立腺がんによる死亡リスクを25%減らす可能性が高い
② フィナステリドの内服7年後に悪性度の高い前立腺がんが増えたのは単に癌の発見がしやすくなっただけだと推測される
③ デュタステリドでも同じように前立腺がんを予防できるかもしれないが証明するには試験が必要となるだろう
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