性病で薄毛になるの?梅毒性脱毛症とは?
以前、医師監修の「AGA以外の薄毛って何があるの?医師が教える薄毛の種類について」という記事の中で、AGA以外で薄毛の原因となる疾患についてご紹介しました。
今日はその中でも比較的珍しく、しかし日本でも徐々に増えている「梅毒」による薄毛について、駅前AGAクリニックの医師がご説明いたします。
そもそも「梅毒」とは?
梅毒トレポネーマ(ばいどくトレポネーマ;Treponema pallidum)という病原体によって引き起こされる疾患です。
性的接触により感染することが知られており、性感染症として有名ですが、一部 性的接触によらない感染もあります。
成人が梅毒に感染した場合、次のような経過をたどります。
第1期(感染部位で悪さをする)
最初の3週間くらいで感染部位に痛みを伴わない硬結(しこり)ができます。
これは無治療でも症状が治まるため治癒したと勘違いされやすいですが、単に体に潜んでいるだけで治っていません。
第2期(血液を介して全身に広がって悪さをする)
全身倦怠感、発熱、手のひら・足の裏を含めた体全体にうっすらと赤い発疹がでます。
バラの花のようであるからバラ疹と呼ばれます。
一般に梅毒性脱毛症は、この時期に生じると考えられています。
ただしその割合は数パーセント程度と言われており比較的まれな症状です。
その後、数年間~数十年と言われる「潜伏梅毒」という目立たない症状の時期があります。
もちろん治っていません。
体の中に潜み続けているのです。
晩期顕症梅毒(最終形です)
ゴム腫、心血管梅毒、進行麻痺、神経梅毒といった全身症状を生じ、重篤な障害や死亡に至ることもあります。
このように大変恐ろしい疾患ですが、梅毒トレポネーマには抗生物質(抗生剤、ペニシリン系抗菌薬など)が非常によく効くため、早く診断して治療を始めれば、重篤な結果にならずに済みます。
梅毒は、最近増えているの?
梅毒と診断された患者様の数は、残念ながら増えています。
2013年 1228人 → 2018年 7001人 → 2022年 10000人超え!
2022年は、1999年以降で初めて1万人を超えています。
このように梅毒が増えているのは実は先進国では珍しくなくて、他の欧米諸国でも同じような状態です。
梅毒は感染症法では「五類感染症で全数把握疾患」と指定されていますから、都道府県知事へ全患者数が届け出されますので、患者数の把握がなされています。
梅毒はHIV(エイズウイルス)と同時に感染しているケースが多いことも知られているため、必ずHIV検査も行ったほうが良いでしょう。
気になる梅毒性脱毛症の症状は?
頭部全体に及ぶ脱毛が生じ、まだら状・虫食い状(moth-eaten)と呼ばれる脱毛が有名です。
症例写真1
Li S., et al., Hair loss and lymphadenopathy., BMJ. ,2019
症例写真2
Tognetti L., et al., Syphilitic alopecia: uncommon trichoscopic findings., Dermatol Pract Concept., 2017
上の写真のような症状の患者様がいらっしゃったら、必ず梅毒性脱毛症Syphilitic Alopecia(SA)を考える必要があります。
しかし同時に、同様な脱毛症状を生じる疾患として他にも白癬症(つまり水虫の仲間)、扁平苔癬、抜毛症、円形脱毛症などを考えて区別していく必要があります。(こういうのを鑑別診断と言います。)
しかも梅毒性脱毛症ではこのまだら状・虫食い状(moth-eaten)以外の脱毛パターンを呈することがあり、例えば全体に薄く脱毛する(びまん性脱毛と言います。)こともありますので、男性型脱毛症AGA/女性型脱毛症FAGAにすら類似しているケースも存在しています。
ですから、診断する医師側にもしっかりとした知識が求められる難しい疾患と言えるでしょう。
あとは、医師の中でも発毛に関する専門科向けの話になりますが、トリコスコピー(頭皮や髪の毛の様子を拡大スコープで映して診察する技術)では、短軟毛(short vellus hairs)、毛包のミニチュア化(hair follicle miniaturization)とそれを反映した毛幹径不均一化(Hair Diameter Diversity)が認められます。
しかしこれらはAGA等でも認められる所見な上、黒点(black dots)など円形脱毛症すら疑わせる所見も梅毒性脱毛症で認められることがあります。
トリコスコピーでは、これがあれば梅毒性脱毛症だ、あるいはこれがなければ梅毒性脱毛症じゃない、などと簡単に言える初見(特異的初見)は、現時点では見つかっていません。
薄毛の原因が梅毒性脱毛症じゃないかと心配したら?
必ず医師の居る医療機関を受診する必要があります。
それも専門領域を良く考えて選ぶ必要があります。
具体的には当院のような毛髪専門のクリニックか、皮膚科等を受診することになるでしょう。
間違っても医師がいないところにいってしまわないようにしてください。行っても仕方ありません。なぜなら梅毒性脱毛症かどうかを「診断」できるのは医師しかいないからです。
そもそも医師以外が診断することは医師法違反です。(医師法第17条「医師でなければ医業をなしてはならない」)
さらに医師であったとしても、前述の通り梅毒性脱毛症を見落とさず正確に診断することは簡単ではありませんから、やはり専門性を考えて当院のような毛髪専門のクリニックか、皮膚科等を選ぶべきと言えましょう。
またその際には「梅毒性脱毛症が心配です」「梅毒に関して、少し心当たりがあって」などと患者様ご自身からも情報提供をいただけますと、医師としてはかなり診断しやすくなります。
治療法は?
採血検査などを経て、梅毒性脱毛症だと診断さえつけば抗生物質(抗菌薬)で治療することが出来ます。
特にペニシリン系抗菌薬が一番望ましいですが、アレルギーがあってペニシリン系が使えない患者様の場合は、テトラサイクリン系抗菌薬を選択します。具体的にはドキシサイクリンかミノサイクリンを選びます。医師によってはマクロライド系抗菌薬を選択することもあります。
早く治療を始めれば、脱毛症状が永久化することなく治癒します。ですので、早く抗菌薬治療を始めていきましょう。
その上で、梅毒性脱毛症以外の脱毛疾患も同時に合併していることがありますから、それらに対する発毛治療も組み合わせていきましょう。
なお梅毒トレポネーマが抗菌薬治療で大量に死ぬことによって、発熱や全身倦怠感(だるさ)、頭痛や血圧低下などの症状が生じることが知られており、ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応(Jarisch-Herxheimer reaction;JHR)と呼ばれています。
治療の際にはこの反応が生じえることも覚えておくと良いでしょう。
まとめ
梅毒性脱毛症は、性感染症(性病)の一種と言われる「梅毒」によって生じる脱毛症状のことです。
日本でも近年、梅毒が急増しており、感染の危険が増えてきています。
梅毒の影響は脱毛症状にとどまらず全身にまで及び、命に関わることがある疾患であるため、医師による診断と治療が必要です。
少しでも心配や心当たりがある方は、専門性を考えて当院のような毛髪専門のクリニックか、皮膚科等を選んで受診しましょう。